祖母が滅茶苦茶手の込んだ「オレオレ詐欺」に引っかかって720万振り込みそうになった話。
皆さんお元気ですか? 花粉も徐々に収まってきて本当に過ごしやすい季節がやってきましたね。僕の祖母は詐欺に引っかかりました。
いや、金を支払っていないので正確には詐欺未遂です。結論からいうと犯人には逃げられたので勝敗は引き分けといった形です。
ただその手順が非常に手が込んでいたので、犯罪に対する注意勧告として、また詐欺師が便所のネズミもゲロを吐くような邪悪な精神の持ち主だから、あるいは単純に話が面白いので、このエントリを書こうと思い当たりました。
ちょっと長いですが読んでくれれば幸いです。
■登場人物・場所
- 僕(月山馨瑞):ブラック研究室で日々精神を病んでいる。
- 祖母:数年前認知症の疑いがあったが最近は盛り返している。
- 祖父:最近伯父から喜寿のお祝いを貰った。
- 伯父(Y):IT関連の小さい会社で働いている。M高卒
- 詐欺師A:伯父を騙った男。
- 川島さん:そんな男はいない。
- 警備員のBさん:そんな男はいない。
- T医大:西新宿にあるという。
- M高等学校:最近卒業生の個人情報が漏れた。
※話せない所以外は真実を話しているつもりです。しかし僕は事件の場にいなくて、祖母からの又聞きで話を聞いたので、本当とは異なる部分があるかもしれません。ご了承ください。
※ただ話はマジで盛ってないです。
■4/12日 午後
午後一時から二時くらいに、実家に電話がかかってくる。
祖母、電話に出る。
詐欺師A「もしもし、Yだけど」
祖母「どうしたの?」
A「今T医大で検査を終えたんだけど、喉のところにポリープが出来てるみたいなんだ。もしかしたら入院して切除しなければいけないかもしれない」
祖母「声が出なくなっちゃうかもしれないの?」
A「そうかもしれない」
という報告を交えた会話をして、「それじゃあ」とAは切ったとのことです。
祖母は自分の息子がガンになったりしたらどうしようと心配になったとのことです。
皆様、ここで「実は医療費に700万かかるんだ……」というAの電話がやってくると思うじゃないですか?
ちげえんだよ!
それからしばらくしてまた電話(たぶん、非通知)
祖母「どちら様ですか?」
A「Yだよ。あんまりにも動揺してしまって、トイレに行った時に携帯電話と財布を失くしてしまったんだ」
祖母「Oh...」
A「それでさっき警備員さんに言ってみたら『一応警察に行った方がいいよ』と言われたんだ。警備員さんはBさんといって、そっちの電話番号も伝えたから、携帯電話か財布が届いたら電話が来るかもしれない」
祖母「分かったわ」
それでまた電話が切れたといいます。それからまた数分(あるいは数十分)経ったときに、また別の電話がかかってきました。
B「どうも。先ほどYさんとお話しした警備員のBと申します」
祖母「どうもすみません。息子がお世話になっております」
B「財布だけは届いたんですよ。ただ財布には小銭しか入ってなくて、カードや紙幣は一切盗まれたみたいなんです」
祖母「困ったわね」
B「Yさんがまたお電話したらお伝えください」
という通話があったというのです。
皆様、ここで詐欺師Aから電話がかかってきて「クレジットカードからお金が全部盗られた。今すぐ700万いるのに払えない! 助けて!」と泣き言を言ってくると思うじゃないですか?
まだ違う!!
またAから電話。
A「お袋、実は困った事が起きたんだ」
祖母「まだ何かあったの!?」
A「近くに会社の決済日が来るんだけど、財布の中にカード(?)が入っていて、それが必要なのに無くなって、金を払わなきゃいけないのにごたごたがあって720万円足りないんだ」
(祖母は「カード」「ごたごた」と表現しましたが、本当はAが細かくて複雑な話をしていて、ただ単に祖母がそれを理解できなかっただけの可能性が非常に高いです。古い、人間だから、、、)
祖母「そんな!!」
A「本当にどうしたらいいんだ。もしかしたら頼むかもしれない」
祖母「分かった。一応何とかしてみる」
そういう会話があったので祖母は急いで銀行までいって720万円を用意したというのです。(振込は出来なかったのでこの時三時は過ぎていたと思います)
皆様、ここで詐欺師Aから口座番号を教えられて「明日中にお金を受け取りに行くから用意してくれ」という展開が始まると思うじゃないですか。
うーん、甘い!!
またAから電話(この時点で木曜の夜)
A「Yだけど。どうやらお金の問題は大丈夫みたいだ。川島さんがお母様かお兄様に頼んでくれるみたい」
祖母「川島さんって?」
A「俺の上役だよ。社長が『川島さんのお母様かお兄様に都合付けてくれない?』と言ったみたいだ。お母様の方には警察がもうすでに来ていたけど、お兄さんの方は大丈夫みたいだった」
祖母「それは良かったねえ」
A「ところでお金は卸したりしたの?」
祖母「用意したよ」
A「そう。多分大丈夫だとは思うけど。だけどまだごたごたしていて支払いしなきゃいけないかもしれない。詳しい話はまた明日話すよ」
祖母「でも私朝から病院に行かなくちゃいけなくて、家に帰ってくるのはお昼ごろになると思う」
A「分かった。じゃあその時にまた電話する」
そうして木曜日の夜が終わりました。ちなみにこの時僕はゼミナールで遅くまで大学にいたので、この話を聞くことはありませんでした。
■4/13 金曜日 朝
僕(酒とポテチのせいで胃焼けがひでえ……飯少しだけでも食うか)
祖母「ねえ、西新宿ってどこか分かる?」
僕「知らねぇよ。新宿駅の近くなんじゃない?」
祖母「昔はこんなに路線無かったのにねえ。今は多すぎてわかんないよ」
僕「駅員にきけゃーいいんだよ」
そういった会話のあと僕は大学に出勤して、祖母は近くの病院に行きました。
ですがここで予想外の事が起きました。その日、祖母のかかりつけの病院は混んでいたせいで帰宅が一時くらいまで遅れ込んだというのです。
それが偶然、功を奏しました。
■4/13 金曜日 午後
祖母「お父さん(祖父)、Yから電話がかかってきた?」
祖父「かかってきたけどさ」
祖母「なに?
祖父「あれ、Yじゃないよ! 偽物だよ!!」
祖母「?????」
祖父「Yじゃないよ!!」
と、祖父が気付き、ここで祖母も怪しみ始め、本当にYなのか色々聞いてみようと思ったらしい、そこで警察に電話をしたようです。
すぐに複数人の警察の人がやってきて、様々な準備をしたようです。例えるなら、警察24時のオレオレ詐欺を捕まえろ! コーナーとほぼ同じ事が起きました。
それめっちゃ見たかったな……
警察の方々にAが話した内容について話し、「できれば逮捕したいのでご協力願えませんか?」という事があってぜひ協力しました。そこに、電話がやってきて、祖母は警察と協力しながらAと通話しました。
A「お金預けちゃった?」
祖母「アルヨ、手元ニ」
A「明日か明後日に受け取りに行きたいんだ。空いてる?」
祖母「イケルヨ。Yダケデ来ルノ?」
A「いや、川島さんと二人で会いに行くよ」
祖母「本当ニ一緒ニ行クノネ?」
A「うん。二人で行くってば」
祖母「本当に本当に二人で来るんだねッッ!!?」
A「はい」
■4/16 月曜日 夜
祖母「だからね。私何度も聞いてやったんだよ! Yは本当に来るの?って」
僕「そうだ、って言ってもAは、当日なんだかんだ理由を付けて来ないでしょ。っていうか、何度もそんな事訊くから逃げられるんだよ……」
祖母「でもその時は完全に私、怪しんでたからね」
僕「怪しんでなかっただろ。俺が怒るまで未だ半信半疑だっただろ」
(注 金曜の夜この話を聞いた僕は「ちゃんと怪しめ」「その時点でおかしいだろ」とかなり釘を刺していたのです)
祖父「お前、警察が来ても未だ信じてたばっかだっただろ。俺は最初から気付いてたもんね」
(注 祖父はよくこういうマウントを取る事を言う)
■4/13 金曜日 午後五時
それで、Aとの通話は終わりました。「明日電話が来たら我々の電話(専用の電話番号を祖母に教えた)に連絡してください。行きますから。明日は外には出ないでください。警察を騙る人物が家に来ても注意してください」と警察の方が言い、五時くらいになって帰る準備をし始めました。
と、ここで祖母はある事に思い当たります。帰る前に警察に祖母は言いました。
祖母「あの、Yの携帯電話に連絡したほうがよろしいでしょうか?」
実は一度祖母は伯父の携帯電話に連絡したといいます。その時は出なかったみたいですが、「あんまり電話をしても携帯電話に私(祖母)の名前が出るから気付かれるかもしれない」と思って電話をしないようにしていたようです(?)
■4/16 月曜日 夜
僕「ん? それっておかしくない? だって『携帯電話をトイレで失くした』って話は詐欺師の嘘だったんでしょ?」
祖母「うん。でも携帯電話に名前が出るとまずいとその時思ったから……」
僕「いやいや。だからAの電話が本当に伯父さんなら、確かに電話をかけたらまずいかもしれないよ? でも詐欺師ってもう検討がついてるわけだから携帯電話に電話をかけるって事にデメリットはないわけでしょ?」
祖母「そうね」
僕「信じてたんじゃん! 詐欺師の事信じてたんじゃん!
祖母「混乱してたんだよ
僕「信じてたんじゃん!! 信じてたんじゃん!!」
■4/13 金曜日 午後五時
話を戻すと、警察が帰る直前に、祖母は「Y(伯父)に電話した方がいいですかね?」と言ったそうです。「それはかけるべきです」とあったので電話したところ、なんと一発で出たというのです。
伯父「なに? どうしたの?」
祖母「アンタ! 今まで大変な事が起きてるんでしょ? 喉にポリープ出来て、病院のトイレで携帯電話と財布を落として、財布の中身全部抜かれて、会社の決済日にお金が足りなくて、川島さんが何とかしてくれるって一時は安心したけどやっぱりお金が足りなくて明日川島さんと二人で受取に来るんでしょ!?」
伯父「…………」
伯父「それオレオレ詐欺だよッッ!!!!!!」
というわけで完全に詐欺であったと分かったわけです。
■後日談
後日談ですが、このあと僕が帰宅して、詐欺の話を聞いて怒りました。
それから土曜日と日曜日、電話を待ったのですが来なく、月曜日警察の方々がいらっしゃってくださいました。話を聞いて、一時まで待ったのですが結局Aからの電話は来ませんでした。
それで、まあ取り逃してしまった、という結果になりました。
もちろん警察の方々の力不足という事では一切ありません。それに、おそらくは住所もバレていましたから、家の様子を観られていたという可能性も十分にありえます。被害妄想かな?
でも伯父の話によればM高(伯父の卒業高校)の卒業生名簿(あるいはそれに似通ったもの)が近頃流出したといいます。実際彼の同級生も同様の詐欺にあったそうです。それに伯父の名を騙った詐欺は数年前にもありました。
■なぜ祖母は騙されたのか?
数年前の詐欺の時はすぐに分かって、このような事態にはなりませんでした。
しかし、そのような体験をしていたのにも関わらず、なぜ祖母は騙されてしまったのでしょうか。
それこそが、僕が最も邪悪であると思った原因です。
詐欺師Aのふるまいは、実際がばがばでした。「生年月日を言ってみて?」と言ったらAは伯父のを答えられたのですが、「父(祖父)の年齢は?」といったところ「80くらいだったかな」と言いました。
これはおかしくて、伯父はつい最近、祖父に喜寿のお祝いを送っていたのです。喜寿と言うのは77歳の事を言いますから、伯父がその事を知らないのは完全におかしい。
でも祖母は「おかしいな」と思いつつも冷静に判断できませんでした。
それは、一重に混乱していたからです。
祖母は「Yが重病にかかって声が出ない、さらには死んでしまうかもしれない」という情報を一番最初に聞かされました。その時点で、祖母はひどく動揺させられてしまったのです。
さらにはトイレで財布や携帯電話を失くしてしまった、金を盗られたなど、一見詐欺の本質には関係ない情報を祖母に与えていました。このせいで祖母は正常な判断が出来なくなっていたと考えます。
恐ろしいほどの邪悪な精神だ。全くもって許しがたい行為である。
弱者の心をひどい虚構でずたずたに切り裂くのも酷いが、最悪なのは命や生活に関わるような病気をダシにした事です。それは、本当にそういった病気を持つ患者に対する侮辱であると、僕は考えます。
本当に、許せない。
まあ金曜の夜にこの話を聞いた時、僕は「何だよ明日大学に用事あるじゃん! 用事無かったら明日一日中家にいて、警察24時を目の前で見る事ができるし取材にもなるのに!」とヤジウマ根性全開だったんですけどね。
(詐欺未遂と最初からわかっていて笑い話にできたので、許してください)
■再発防止のために
NHKの夕方のニュースに「ストップ詐欺被害!私はだまされない」というコーナーがあります。このコーナーはこれまであった詐欺被害などを紹介して気を付けてください! と情報を流すのです。結構タメになるのだが、「こういうのを聞いて気が付ける人間はそもそも詐欺に会わないんだよなあ」とも思ってしまいます。
もちろん、このコーナー自体はとても有意義です。特に、自分の身の回りにこういった出来事があってからは、さらにそう思う。
面白いのは「詐欺警報」というものです。これは東京23区に天気予報のように、「詐欺警報」を出すミニコーナーで、例えば「北区や品川区で詐欺が多発しているので気を付けてください!」と言ったりするんです。
一見「何だよこれ、本当にこんなの起きてるわけ?」と思っちゃうんですが、根本的でないにしろ効果的な詐欺対策と言えるでしょう。
何故なら品川区でオレオレ詐欺を計画している犯罪グループは、NHKでそんな事を言われてしまえば、絶対に品川区での詐欺計画を延長せざるを得ないからです。万が一にもターゲットがそういったニュースを見ていて、「気を付けよう」と思っていれば、警察に連絡されて逆に捕まってしまう可能性も高くなってしまう。確かに、ニュース番組の占いコーナーみたいに科学的根拠が無さそうですが、詐欺対策として評価できると僕は考えます。
ちょっと脱線したけれど、詐欺にあう人は、やっぱり詐欺にあうというのが悲しい所です。じゃあどうするのかというわけですが、この事件を後から知った僕は一点、祖母にはっきり怒った事があります。
「どうして俺に連絡してくれなかったわけ!?」
この言葉に尽きます。もし僕や家族に連絡してくれれば、「もしかしたら怪しんだ方がいいんじゃない?」という事ができるわけです。自分自身が冷静でなくても、誰かに話す事で冷静になれたり、怪しんだりすることができると思うのです。
僕はともかく、これは四十代・五十代で、高齢の親をもつ人達にも言える事だと思います。その人自体が、いくら詐欺対策について知っていたとしても、詐欺師は巧妙で邪悪な方法でその人を騙すわけです。そういった場合に、兎にも角にも誰かに相談できる環境を作る事が、最も肝要であると僕は思いました。
まあ気軽に、おっくうでも父親や母親に「詐欺っぽい電話があったらまず私に電話して」と言ってみたらどうでしょうか。
別に正義の為だとか老人を守ろうだとか、そういう精神はあんまり僕には無いです。それから老人は金を溜め込んでるから経済的にも金を抜き出すのがいいんだ、というのも、僕には否定できません。
実際僕は祖父祖母らの貯金の額に「俺に半分くれよッ!」と思ったくらいです(おそらく彼らの世代自体が、貯金に重きを置く思想を持っていると思われます)。高齢者がもっと消費できる環境になればいい、と僕は思っています。
この文章を書いた理由としては、単純に僕が彼ら詐欺師を『極悪人』だと思ったからです。そして、彼らがオイシイ思いをするのは、なんか悔しい。
僕の気持ちはこれで以上です。